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フロンティア賞: 荒川 雅生(香川大学) |
「最適設計」との出会いは,早稲田大学の山川研究室における卒論のテーマ決めの際に希望していたものと違うものになったことに遡ります.当時はAIブームだったために,卒論にAIと最適化を利用するということだけが決まっていました.最適化はもちろんのこと,AIが何の略かも知らなかったところから始まったことを思うと,このような賞をいただけることが非常に不思議な気がしたしております.また,最適化の何たるかを教えてくださった,早稲田大学の山川先生,北海学園大学の杉本博之先生,甲南大学の中山弘隆先生,NASAの三浦宏一先生にはどのように感謝申し上げてよいのかわかりません.研究を始めた当初の私ども山川研のメンバーにとって最適化とは,傾斜投影法でした.何故この方法がよいのかなど,考える術もなく,ただ単に先輩が使っているからという理由で使っておりました.ご記憶の方がどれだけいるかわかりませんが,私の中で山川先生といえば増分伝達マトリクス法を用いた最適設計という動的応答解析を利用した最適化の研究があります.よく知られている伝達マトリックスに「1」をつけただけのマトリクスを増分伝達マトリクスと称して,ウィルソンのθ法を組み合わせた動的応答解析があり,さらに,増分伝達マトリクスの感度を解析的に求められることから,これを傾斜投影法に反映させた方法です.コンピュータの進歩が後4,5年遅かったら,動的応答解析の最適化はこの方法が世界標準になったのではなかろうかと未だに思える方法です.当時は,浅はかだったので,どっからどうみても,ただ単に「1」をつけだだけでこんなにすごいことができるんだとものすごく感心し,これ以上の発想を自分がもてるだろうかといういい目標になりました.最初に自分がテーマ設定から始めた研究にファジイ数の応用があります.学部4年生のときに関西大学の古田均先生が機械学会のなんかの研究会で話題を提供される機会があったようなのですが,客の入りが少ないので,今ゼミ室にいる人間は全員桜としてすぐに来いという呼び出しがあったようです.ゼミ室に着くなり先輩方に強引に連れ出されました.古田先生の話が面白くないわけがないのですが,何のことやらさっぱりわからず,目の前でずっと寝ていたのを覚えています.古田先生に「その席に座る奴は普通は起きて聞いているもんだ」と言われたことが結構ショックで,大学院に行ったころから独学で学んでおりました.博士課程に進んだ春に山川先生がオーガナイザーを引き受けたから,なんか一つくらい発表しないと格好がつかないからやりなさいという一言で本格的に始めることになりました.簡易ファジイ数演算に気がついたのは,それから約1年後のことです.今から思うと,信頼性工学で行っている1次近似と全く同じ話なのですが,自分で気がついたときには,ものすごく感動したのを覚えています.その後しばらくたって,ロバスト設計に結びつけていますが,未だに完結させておりません.実問題を考えたときに,変数間の相関性は無視できません.変数間の相関性が予めわかっているものもあるでしょうし,設計事項として制御できるものもあるでしょう.それぞれにおいて対応は変ってきます.そして,非線形性の度合いに応じても変ってきます.それぞれのケースに合わせた定式化をして,多目的最適化を解く必要があるはずなのですが,分かり易くそういう状況を説明できる良い例題が見つかっていないのが現状です.そのころ,ミシガン大学の菊池先生らがはじめになった位相最適化がはやりだしてました.内容をよく理解できなかったのですが,これは面白そうだと思ったことと,こんなに沢山感度を求めなくてはいけないのだったら,これは大変だと思いました.当時,ニューラルネットワークがはやっていたので,何とか2次形式に落とし込んで,ニューラルネットワーク的に解いてしまえと考えておりました.そんなときに土木学会の最適化シンポジウムの講演で,小林重信先生の遺伝的アルゴリズムの講演を伺い,これだと思って,遺伝的アルゴリズムを利用した位相最適化の研究をしました.この種の方法は,全世界的に同時期に色々な方が手がけておられます.私もその一人だったわけです.ところが,よくよく考えてみると,条件を与えた後の位相は,ある程度必然的に求まるものであり,均質化法はもっとよく工夫されていて,遺伝的アルゴリズムを利用するよりも数倍優れているということに気がつきました.浅知恵で飛びついてしまい,遺伝的アルゴリズムの本質も見ずに,それを使ったというだけで論文になるからやってしまいましたということをしてしまったわけです.自分自身への視ク望もありましたが,遺伝的アルゴリズムに対する失望も同時に非常に大きかったです.こんなひどい方法はないと思っていた私を説得してくださったのが杉本先生でした.「少なくとも土木の世界には遺伝的アルゴリズムを利用しない限り解けない問題があるから,もう少しちゃんと勉強してみたら」と言われました.そして個人的に抱えていた不満を解消するために考えたのが領域適応型遺伝的アルゴリズムでした.この程度のことは誰かが既にやっているだろうと思っていたのですが,名古屋大学の福田敏男先生の紹介でお目にかかったMichalewicz先生が,そんな方法聞いたことないし,それはルール違反だとおっしゃったので,やってみる価値はあるだろうと思いました.パラメータの設定方法が難しいのですが,うまくはまれば,未だにいい遺伝的アルゴリズムの方法だろうと思っております.遺伝的アルゴリズムを通じて,それぞれの方法にあった使い方をしっかりと見極めて壊しても良いルールとそうでないものを取り違えると,場を荒らすこともあって,極めてよろしくないということを学ばせて頂きました.
多点近似に興味を持ったのはカリフォルニア大学のAgoginoの研究室を訪問しているときでした.毎週水曜日にミーティングがあります.ここで,学生たちが彼女を説き伏せるという形で進んでいきます.最適化の研究者だと思っていた彼女は,最適化にものすごく否定的でした.彼女が理由にしたのが,実用的でないということです.モデルを作って最適化をしたところで,コストばかりかかってでてきた結果は使い物にならないということを何度となく言われて最適化には失望しているという論調を彼女のゼミ生と一緒になって壊すのが週1回の仕事になります.そんな中で重要なことが,多目的最適化と近似最適化だと言う気がしてきました.その後,近似最適化は,中山先生に教えていただいたRBFの近似を利用するようになりました.複雑な応答曲面には適しています.今,これを利用して実用的な問題を一つでも多く解こうという活動を,NPO「しなやかシステム工学研究所」の椹木義一先生のご指導の基で行っています.多目的最適化に関してはようやく手がつき始めた段階ですが,少しずつ形らしいものが見えてきております.これからも多くの協力者とともにw?進めていきたいと思っております.
長々と自分自身を振り返ってしまいましたが,幸いにして色々と教えてくださる先達に恵まれてここまで研究を続けていくことができました.今は,金沢大学の北山哲士先生にPSOを教えて頂いたり,幸いにして後輩にも追い立てまくられています.そういう幸運を与えてくれた「最適化」という技術が実用に供するように私なりにできることをしていくことが,この賞を頂いた私への使命かなと思っております.部門の皆様におかれましても,今後とも,ご指導ご鞭撻をいただけますよう,よろしくお願い申し上げます.